第五話 いそぎんちゃく

4.粘


 どこじゃぁ!! 化け物めぇぇぇ!!

 老漁師の叫び声をおいかけ、若者達は浜に戻った。 見覚えのある岩場は、先ほど金髪女がいた場所に

間違いない。 そして、そこに老漁師もいた。

 「そこかぁぁぁぁ!!」

 木刀のように銛を振りかざした老漁師を、真っ先に駆けつけた若者が羽交い絞めにして止める。

 「やめねぇかよ」

 「止めるな! 見ろ!」

 老漁師の叫びに、一行はその視線の先を追う。 そこには、金髪女と絡み合うアメパンの姿があった。

 「あ……アメパンめ」

 「チキショー。 俺も残れりゃ良かったかな……」

 やっかみ半分の若者達、そのの声のトーンが段々下がってくる。


 ”なんだ?……誰か……うぉぅ”

 『他に気を取られないで、私だけを感じて……ね?』
 言葉と共にアメパンの全身が快感に包まれる。 ぞわぞわと音を立てて、体全体を蛇ともナメクジともつかぬ

ものが吸い付き、這いずっているのが判る。 そして……

 ”熱い……あんたの中はなんて……熱くて柔らかいんだ”

 アメパンのモノは、女の中で熱い襞の抱擁に捕まっていた。 芯まで蕩けるような快感に、アメパンは動く事を

やめそのえもいわれぬ感触を堪能する。

 ”なんて気持ちいいんだ……あんたの中”

 『いいでしょ……ここ……たまらないでしょ』

 ”……ああ……いい……蕩けそう”

 『……蕩けさせてあげる……ほら……判るでしょ……アソコから……気持ちよーく……蕩けていくのが』

 ヒクッ……ヒクッ……

 アメパンのモノが痙攣するように蠢く。 それにつれ、トロリとした粘っこい快感が、アメパンの中にトロトロと

流れ込んで来る。

 ”あはっ……あはっ……ああっ……ああっ……”

 男の証に快感がたまって暴発する感覚、アメパンはそれを全身で感じていた。 足の先からトロトロしたものが

たまっていき、見る見るうちに体を満たしていく。

 ”げへっ……げへっ……けへへへへへっ……”

 アメパンは巨大な男根になった、全身で男の喜びを感じる。 後は……弾けるだけだ。

 ”!!!!!!”

 一瞬の後、アメパンは白く熱い快感そのものになった。


 「か、髪の毛が」

 「う、動いてる」

 金髪女の髪の毛がアメパンの全身に絡みつき、蛇のようにのたうっていた。 それは、アメパンを愛撫している

ようにも見え、事実アメパンは髪の毛の動きにあわせてよがっていた。

 「ア、アメパン?」

 声が聞こえたのか、アメパンがちらりとこちらを見た、狂気とも愉悦とも取れる表情を浮かべた顔で。

 「ひっ!」

 若者達は声を失い立ち尽くす。 その間も、金髪女とアメパンは途切れることなく、まぐわい続けた。

 ホーホロホロホロホロホロ…… 女が奇妙な声でなく。 それに合わせたかのように、アメパンが獣の様に吼えた。

 ゴボッ!

 突如アメパンが白いモノを吐き出した。 と、たちまちその姿が縮み、崩れていく。

 「アメパン!」

 バッシャッ!

 辺りに異臭が漂う。 金髪女の腹の上で、アメパンは一瞬のうちに男の精気と化してしまったのだ。 後には、白い

粘液にまみれ満足げな表情で横たわる金髪女だけが残っていた。

 「馬鹿な……」

 「わっしが言うたろうが」 老漁師が平板な声で言った。 「『いそぎんちゃく』は獲物をとろかしてしもう。 あん若けぇもんは

奴の餌食になっていんでもうた」

 「いんで……し、死んだって!?」

 若者達は、仲間が『死んだ』と言われ、その言葉に衝撃を受けた様子だった。

 「ア、アメパン……」

 「……生きてる」 ぼそりと誰がが呟いた。

 「へ?」 


 アメパンは至福の中にいた。

 ”えがった……”

 絶頂の瞬間は、頭が真っ白になり体が破裂するかと思うほどの熱いエクスタシーだった。 続いて、ぬるま湯の

ような陶酔感に全身が包まれ、それに身を任せて力を抜き、女に体を預けた。

 ”ふにゃぁぁぁ……”

 体の下に女の肌がある。 そそり立つ乳房、くびれた腰、蠢く髪、滑る舌、全てが一度に感じられる。 アメパンは

体が欲するままに女の体を愛撫した。


 「……」

 女を濡らす白い粘液が蠢いている。 アメパンだったモノは、白いアメーバのようなあさましい生き物になり

まだ生きていた。

 ホロホロホロホロ……

 女は手で粘液を掬い取り、髪の毛でそれをかき回す。

 ゴホゴホゴボ……

 白い粘液が泡立つ、喜んでいるのだろうか。

 女は、掬い取った『アメパン』をそっと自分の秘所に導いた。


 ”あはぅ……”

 アメパンは、体の一部にぬくもりを感じた。 どこか懐かしいその奥で、蠢く襞が自分を呼んでいる。

 ”いく……”

 アメパンは躊躇うことなく、魔性の洞窟に身を投じる。


 ジュルッ、ジュルッ、ジュルッ、ジュルルルルル……

 粘る音を立てて、『アメパン』が金髪女の秘所に吸い込まれていく。

 白い粘液の下で、女の肌は上気し、腹が脈打つ。 そして、淫らに開いた女自身に、溢れんばかりの勢いで

白い粘液が吸い込まれる。

 ”ああ……なんて……居心地がいいんだ……” 女の腹の中でアメパンの声がした。

 「ひぃぃぃ!」

 誰かが悲鳴を上げたが、女は意に介した様子も無く『アメパン』を胎内に収め続ける。 それは悪夢のような

光景だった。


 ジュルルル……、チュル。

 やがて、『アメパン』は全て女の胎内に消えてしまった。 岩に体を預けている女の腹がゆっくりとうねり、

そこから『アメパン』の声が聞こえている。

 ”いい……気持ちいい……ここから出ないぞ”

 「……成仏せぇよ」

 老漁師が銛を取り上げ、構えた。 若者達は、絶望の表情で金髪女、『いそぎんちゃく』と老漁師を交互に見る。

 ホロホロホロホロホロホロ… 

 その刹那、彼らの背後で『いそぎんちゃく』の声がした。

 「!」

 彼らは身を固くし、見たくない物を見るように振り返った。

 「なんてこった……」

 浜に、岩場に、多数の『いそぎんちゃく』が寝そべっている。 あられもない姿で秘所を晒し、彼らを誘っている

その魔性の胎内に。


 ”気持ちいい……お前らもこいよぉ……”

 彼らの背後で、地獄におちたアメパンが呼んでいた。

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